階段Eプロジェクトのいま

階段小径研究部(こみち研)がスタートしてから間もなく1年。実際に階段Eの整備を始めてから5カ月が経過しようとしています。現在は、157段(約80メートル)の階段のうち最も荒廃していた0~45段目付近(約25メートル)を整備し、3月にいくつか新しい植物を植えました。すこしサッパリした階段小径を見上げると、「ヤッテヤリマシタナ!」という満足な気持ちが湧いてきます。

この機会に、プロジェクトのこれまでを振り返ります。

やっぱり、みどりの多い散歩が楽しいまちがいい

プロジェクトのきっかけは、みどりの丘クラブでヤブ化して通りにくくなってしまった階段Eが話題になったことでした。坂のまちには植栽に縁どられた階段小径がたくさんあり、いろいろな経緯で手入れが行き届かなくなっている階段もあります。階段Eもそのひとつでした。クラブには、玉川学園がみどりの多いまちであってほしいという共通の気持ちがあり、「みんなで階段小径のみどりを育てられるか」「どうしたら存続できるか」をさぐる「こみち研」グループが生まれました。階段Eはその実験場ともいえます。

みどりを育てることは、もっと面白くてもいいじゃないか

初めての会合が開かれたのは5月。階段Eは、小さな雑木林・観察路のような景観をめざすこと、土壌の改善と在来植物を中心とする植栽で管理の手間を少なくすること、既存の樹木をできるだけ活かすことで、しだいにまとまっていきました。もうひとつ意見が一致していたことがあります。みどりを育てること自体を楽しもうということでした。うまく行くかな? でもまあ、相手は植物ですし、やってみないとわかりません。やってみましょうよ。

関係者との対話が続いていた9月のある日、既存の樹木に植生調査標を付けてみると、たったそれだけで荒廃した印象がやわらいだように感じました。この緑地を気にかけている人がいるという気配が、そう感じさせたのでしょう。

切って、掘って、埋めて、醸して

月日はあっという間に飛んでいき、階段小径の整備に取りかかったのは11月でした。階段Eでは、有機土木の考え方を採り入れて土壌を改良しています。覆いかぶさるように茂っていたクズやヘクソカズラをはらい、斜面の等高線方向にところどころ30センチメートルほどの深さの溝を掘って、剪定した枝を組み合わせて「しがら」を組み、そこに落ち葉を詰めこみます。この作業、達成感があって思いのほかスカッとします。

掘った溝から雨水を地中深くに浸透させ、樹木が根をより深くに降ろして渇水に強くするのがこの整備方法のねらいですが、土中の微生物が落ち葉を分解して植物の養分に変える過程で土壌を柔らかくする効果もあります。この作業を始めると、落ち葉はじゃまものではなく、樹木を育ててくれる宝ものに変わります。

階段小径に置いた目印の石。設置以来、「20段目にブツを置いたのでヨロシク」のような業務連絡がやりとりされるようになりました。使用した3種類の塗料のうち、いちばん長持ちするのはどれになるでしょうか。


「花」も「実」もある共有地と考えてみる

「で、ここをどうしたいの?」

階段Eで作業をしていた冬のある日、造園の専門家が階段Eの様子を見に来てくださいました。在来植物中心の……小さな雑木林……観察路のような感じで……とボソボソ話すこみち研。

「フム。自然指向だけじゃなくて、もう少し園芸と農耕の要素もいれてみたら? ここをみんなの共有地と考えて、近所の人が自由に高菜やミカンの実を摘んで行けるようにするのはどう? ここは東向きで南側からの陽はあまり差さないでしょ。ミカンて日当たりを好む植物と思われているけど、実は日陰に強い……滔々」

これまで考えていなかった視点と豊富な植物の話に、一同目を見張ったのでした。なお、ここで登場した造園の専門家は、桜の季節になるとまちで桜の枝を配るので、「まちの花咲かじいさん」と呼ばれているお方です。以来、私たちの間では尊敬の念をこめて、秋山パパと呼んでいます。

小さく始めて、もっといい考えがあれば採り入れ、問題があればささっと軌道修正するやり方が、階段Eのような実験的プロジェクトには合っています。

この日も暮れゆきて。作業のあとの飲み物はおいしい。

はじめての植え込み

草木が目覚める3月は植え込みの好期です。この機をのがすと夏越しに難渋しそうな植物もあるので、少々あわててしまいました。いったんヤブ整備の手を止めて、クラブのメンバーから提供していただいた植物や取り寄せた植物を、整備済みの斜面に少しずつ配置しました。斜面の下端は、その場にあったものを使ってしがらを組み、レイズドベッド風にしています。

次、何しますかね?

こみち研内の連絡は現在のところチャットで行われ、チャットでもどかしい時には、朝7:30に駅前のコーヒーショップに集合して「朝活」が開かれます。議論の合間に仕入れる、都市に小さな森や野原を作るプロジェクトの話、話題になったニューヨーク高架鉄道跡地の庭園、かたはしから食べてみたいろいろな野草の話、旅先で見たグッとくる看板、便利そうなソフトの話が、寝ぼけた脳を刺激してくれます。ひととき話したあと、それぞれの仕事へ。

何人か集まると、次にやってみたいことがむくむくと湧いてくるものです。メンバーの口から漏れ出た希望もしくは野心は、例えば以下のようなものです。


・階段を利用した楽器を作りたい

・ナツハゼとノリウツギを植えよう

・造園家を招いて剪定を教えてもらおう

・春、スミレの花が一面に咲いたらきれいだね

・落ち葉を溜めるバイオネストを作りたい

・途中にベンチがあるといいね

・流しそうめんもワンちゃんアリ?

・階段Eの模型を作ってみたい


写真は、スミレ野原の一画を夢見て、階段Eにできたスミレのナーセリー(種苗園)です。

このような調子で、こみち研は1年間、のびのびと階段Eのみどりを検討したり育てたりしてきました。けれども、私たちだけでできたわけではありません。階段Eを整備するにあたって、土地の所有者に許諾をいただきました。地区社会福祉協議会(地区社協)には、土地の所有者との交渉で間に立っていただきました。地区社協と玉川学園町内会からは、道具や植栽などを購入する費用や、今後専門家の指導を受けるための費用をご支援いただきました。

また、ご近所の方に通りがかりに声をかけていただいたり、現場に剪定した枝や落ち葉を持ってきてくださる方が現れたことに、とても元気づけられました。前回なかったはずの剪定枝が積んであるのを見つけたときの驚きといったらありませんでした。

この投稿をご覧になっている方で、自分好みの借景を作ったり、みどりの散歩道をデザインしてみたい方、ガーデニングの腕前を上げたい方、段差を利用して遊んでみようという方、植物を相手に週末の解放感を味わいたい方、気軽に声をかけてください。階段Eのプロジェクトはとても良い機会です。

(ei / Photo: coconami, kt, hitsuji)


🔳参考資料

プロジェクトの検討の過程で、たくさんの書籍、資料、魅力的なコミュニティ、便利なサイトを知りました。


『土中環境』(高田 宏臣著、建築資料研究社刊):

https://www.kskpub.com/book/b509625.html

剪定枝を使った斜面の改善「ボサ置き」: 土中環境の改善方法:

https://www.youtube.com/watch?v=MvIxMfJk-yM

『土と生命の46億年史――土と進化の謎に迫る』(藤井 一至著、講談社刊):

土とは何か。地球史・地球生命史から辿り、土と生物の相互作用、生物の進化との関係、土の疲労と再生の話へと展開していく魅力的な本。土の形成や生物との相互作用などが、化学・物理的な現象として平易かつ具体的に説明されています。

https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000404469

シモキタ園藝部:

地下化した小田急線下北駅の跡地を、みんなで野原に育てて楽しんでいます。まちの中心部にできた空き地を野原に転換して成功した、興味深い事例です。構想に10年かかっていると聞きました。

https://shimokita-engei.jp/

comoris(コモリス):

都市の空き地に小さな森を作って育てるシェアサービス。みんなで出資して、雑草が生えていた代々木上原の小さい空き地の土壌を改善し、木を植え、そこで朝ごはんを食べたり、高木の剪定ワークショップをしたり、農地を作ったり、ヒキガエルが棲むビオトープを作ったりすることを楽しんでいます。都会的な新しいみどりの文化として育つかもしれません。

https://comoris.co/

https://note.com/comoris/n/ne44572338387

https://www.youtube.com/watch?v=m9No6ZHLNg0&t=31s

かしの木山の仲間たち:

かしの木山自然公園の動植物の生態系を保全している愛護会の方々の活動の様子が紹介されています。月イチ開催される観察会は、その時々の植物の見どころや生態を専門家のガイドで見られ、とても勉強になります。この公園がまちから歩いて行けるところにあることの幸せを感じます。

https://kashinoki-nakama.jimdofree.com/

新百合ヶ丘の緑地管理:

新百合ヶ丘は玉川学園と人口規模が近いまちです。駅の北側は、開発計画により地区の約1/4が公園・緑地、さらに住宅の緑化を含めると面積の約4割強が緑で覆われ、地域ボランティア+自治体が維持しています。駅北側の緑地を3タイプに分類し、それぞれどのような管理作業をどの頻度で行うかまとめた資料がありました。

https://www.shinyuriyamate.com/wp-content/uploads/%E8%B3%87%E6%96%993.pdf

https://www.shinyuriyamate.com/yamate-park/

日本コミュニティーガーデニング協会:

タネまきから収穫までの園芸体験を通じて、子どもたちに人間と自然・植物のかかわりや、共同作業の学習機会を提供しています。代々木公園の活動では、ハーブガーデンを育て、育てた植物から身近なものを作っています。

https://npojcga.com/yoyogipark-harbgarden/

里山文庫|民族植物実験室@奈良:

森の民に伝わる保存食や植物利用の知恵が写真で紹介されています。野草茶や草をなった工芸のアイディアと写真に刺激されます。

https://www.instagram.com/satoyama_library/

農村伝道神学校の森の保全とワークショップ:

前出のボサ置きを含め、生態系を意識した土壌改善や森の保全について、実践的な講習を受けられます。

https://noden.ac.jp/

こみち研の植栽候補リスト:

在来種の中低木と草花を中心に選びました。ほんとうは植えたかったコナラやナラの高木もまだ残っています。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1O8I1RabLjDrRHVUCOSKrO8ZjywFPIHs5RB3nPmXGy7U/edit?usp=drive_web

積水ハウスの5本の樹プロジェクトと庭木セレクトブック:

ご家庭の植栽選びにも便利な在来種樹木の紹介。

https://www.sekisuihouse.co.jp/gohon_sp/method/

植木ペディア:

樹木の特徴と性質が、樹木の各部・季節ごとの写真とともに紹介されています。掲載されている写真を自由に使用できるので、イベントでのクラブの展示でも利用させていただきました。

https://www.uekipedia.jp/

国土地理院地図Vector:

国土地理院の地図を用途に合わせてカスタマイズできます。過去の地図を探したり、地点Aと地点Bの距離や高低差をグラフにしたりと、便利な機能もあります。

https://maps.gsi.go.jp/vector/#4/36.104611/140.084556/&ls=vstd&disp=1&d=l

Google Earth:

衛星画像から作成されているおなじみのバーチャル地球儀。玉川学園のまちを、さまざまな高度と角度から3D表示できます。過去の衛星画像から、階段Eの15年前の様子を知ることができました。

https://earth.google.com/

今昔マップ:

過去の地図と現在の地図を2つ並べて比較できます。玉川学園の60年前、120年前の地形図と比較して、地歴を調べることができました。

https://ktgis.net/kjmapw/

坂のまちあるきマップ:

玉川学園の景観スポットや見どころ、ベンチや自販機の位置などの情報などを紹介しています。坂のまち元気プロジェクト編。

https://machikatsu-machida.com/1b3183c664bf80518237ea5702b87e5c

東京における自然の保護と回復に関する条例:

1000平方メートル以上の敷地に建築物を新築・改修する場合、緑地を設けて届け出ることを指定する条例。届出書の説明には、植栽する樹木の目標値なども記載されています。この条例から、階段Eの緑地が設けられた経緯を知りました。

https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00001367.html

玉川学園みどりの丘クラブ

玉川学園がみどりの多い楽しいまちであってほしいと願う、植物愛好家、園芸家、ミニ農園主の集まりです。まちの樹木や草花をふやしたり、植物との付き合い方や近隣のみどりの課題について情報交換したりしています。

0コメント

  • 1000 / 1000