雑木林のなかの暮らし

 このまちに、遠くからも見えるこんもりとした緑色の一角があります。去る3月のクラブの定例会では、そこにお住まいの押村宙枝さんをお招きして、木々との暮らしをお話いただきました。樹木の上を飛翔しているかのような仕事部屋からの心躍るながめ、そこにやってくる動物たちとの珍事。植物や動物の野性をまるごと楽しんでいるご様子に、ぐいっと引きこまれます。そして、誰もができるわけではない押村さんの暮らしが、まちのみどりを支えているのだということにも思い至ります。

 では、当日のたのしいお話を以下↓から追体験してください。

峠のわが家は林のなか

夏は、駅から延々坂を登って帰ってきて、セミの声がワーッと聞こえると、「あぁ、家に帰ってきたー」って思います。

 ウチは玉川学園の最初の分譲のときに引っ越してきた第一期生。この辺が山林だったところをそのまんま買って、どっかこの辺に家が建てられるだろうか、とかいって平らなところを切り拓いては建て、切り拓いては建てしてきたんですね。ウチのあたりが雑木林のように見えるらしく、宅急便屋さんの新人が「ここでよろしいでしょうか?」と電話をかけてきます。

 大きなクスノキと2本のクヌギは昔から。ミズキも勝手に生えてきたんでしょう。いまも毎年、コナラやクヌギなんかが実生で生えてきます。ビワの木は、娘が食べたあとのタネを植えたものが育ちました。

 あ、でも、竹は植えたんです。もう50年以上前のことですけど、先々代が崖が崩れたら危なかろうと植えたのが問題の始まりで。竹は間引いてやれば本当に綺麗なんです。それでかなり頑張った年もあるんですけど、最近はちょっと負けてて竹林になりつつあります。だからタケノコを大量に掘るんですが、そうなると大鍋でゆでて1年分あります。

 竹は明るいところを求めて人間の領域に攻めてくるんですよ。母が住んでいた以前の家は、テラスと家の間から竹が出てきてたいへんでした。今の家はすごく深くまで基礎を打ってもらって、おかげで家には入ってこないはず、ですけど。


タカも来る、タヌキも来る

私は二階の東南の角を仕事場にしていて、机を窓の方に向けているんです。眼下に崖から生えている木立が見えるので、ちょうど自分が宙に浮いているような感じですね。

 窓の外では鳥が始終飛んでる。それで、普通なかなかお目にかかれないものが見えます。

 竹藪が窓に映りこんで、外からは窓が見えにくいようなんですね。ガンって音がして、「鳥が当たった!」と思って目を上げると、続いてその鳥を追ってきたチョウゲンボウ(タカの仲間)がバンって当たって網戸の格子がはずれ、私と目が合って、「ここは何なんだ?」みたいな顔して飛んでいく。翼を広げて窓にしがみついてたからわかるんですが、確実に窓1枚分の大きさがありました。追われたモズ(百舌鳥)のほうは家に当たって庭に落ち、「あんた死んだ?」と思って見ていると、「もう大丈夫!」みたいな感じでこちらも1時間くらいして飛んでいきました。

 ミズキにはアカゲラが棲みついているし、ゴイサギがウチのクヌギのてっぺんで「ギャーッ」と鳴いてることもあります。ウグイス、カモ、シジュウカラ、オナガ、鳥はもう名前もわからないほどいろいろやってきます。鳥だけじゃないんですよ。

 2年家をあけて帰ってきたらモグラの天下、庭中にモグラ塚ができていたこともありました。ずっと空き家になっていた先々代の家を壊したら、仏壇の前のお寺さんが使う錦の座布団にたぬきの毛が。さては住職さん、たぬきだったのか!

 そういう話には事欠きません。だから、雪が降ると面白いですよ。いろんな足跡があって。そういうところです。

 ――アオダイショウ? 今でこそ少なくなりましたが、かつて東玉川学園のあたりはオタマジャクシのいる沼と雑木林だったころがあって、80代、90代の母や同世代のご近所さんたちはみんな、ヘビといかに戦ったかという武勇伝をお持ちです。ちょうどスコップがあったから叩いたとか、自転車に乗ってたから轢いてやったとか。


木が多いと大変じゃありませんか?

木は半年がかりで一所懸命葉っぱを育てておいて、なんで捨てるんだろう。そう思いながらかき集めて、ゴミに出して。だけど、本当はゴミなんかじゃなかった。

 ウチはクヌギの大木が2本あるので、落ち葉が半端ない量落ちてきます。でも道路から家へ続く土の階段は、必死に落ち葉掃きをすると土が削れて痩せてしまうんですよ。それで落ち葉掃きをやめたら、土が腐葉土になって、中から新しいみどりが生えてくるし、コガネムシもカブトムシもいっぱいいます。ああこの人(木)は、夏は自分の体を育てるために葉っぱを作り、終わったら落として地面を豊かにしてるんだな、って気づくんです。

 やっぱり木が多いのは大変です。大きな木は植木屋さんもクレーンがないと駄目で、今は道路側の木を東電さんが2年に1回ぐらい来て、電線に触れるところだけ切ってくれています。季節になればいろんなムシもやってきます。

 私は好きでこうしていますが、動物がやってきたとか、新しい実生の木が生えてきたとか言って喜んでるのは一家のなかで私だけ。もし私が死んだら売られてしまいそう(笑)。

 でも私は、ウチと隣の家の間のクスノキの木を何とか残したいんです。遠くからこんもりと見える山のてっぺんの樹冠を残したい。なくなってしまうと、こんなに低かったんだ、小さかったんだ、となる。やっぱりクスノキの存在感は大きいので。

 ちょうど私が竹を切っている時、若いお父さんがお嬢さんを連れて通りかかって、「この木は腐ってしまって中がカラだね」と話していきました。ちょっと待ってくれ、ここにはかぐや姫が!(笑) やっぱり若い人たちも自然に触れないといけないと思うんです。

――何か作業が必要だったら行きます!

 それは無限にあります(笑)。いや、たけのこの季節に来ていただければ。斜面なので大変ですけど。ウグイスがなくころに。


ei/Photo: Kt/Illust: 押村宙枝

玉川学園みどりの丘クラブ

玉川学園がみどりの多い楽しいまちであってほしいと願う、植物愛好家、園芸家、ミニ農園主の集まりです。まちの樹木や草花をふやしたり、植物との付き合い方や近隣のみどりの課題について情報交換したりしています。

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